【2025年法改正】木造 初めての壁量計算⑧(偏心率)

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はじめに

建築基準法では、偏心率計算を求める規定が2つあります。

1.令46条1項に対応したH12建告1352号(告示1352号ただし書き計算)
許容応力度計算を行わず、単独で偏心率計算を行う場合を意味しています。

2.令46条2項壁量不足の場合、許容応力度計算の一環として偏心率計算を求めています(S62建告1899号)

ここでは、1について説明します。

それでは、偏心率について計算していきます。

↓この本も参考にしています。

偏心率とは

偏心率とは、重心と剛心のへだたりのねじり抵抗に対する割合として定義され、その数値が大きい程偏心の度合が大きくなります。言い換えると、耐力壁等の水平抵抗要素の平面的な偏りの大きいことを表しています。

建物の重さの中心を『重心』と呼びます。
建物の耐力壁の配置による堅さの中心を『剛心』と呼びます。
重心と剛心のずれを『偏心』と呼びます。
つまり、重心と剛心が離れていると偏心が大きく、建物はねじれるようにして壊れます。

2000年(平成12年)の建築基準法改正で規定され、木造住宅においては『偏心率は0.3以下であること』を確認します。
偏心率0.15を超え0.30以下ならばFe割増またはねじり補正を行うこととされています。

ちなみに、偏心率計算の代替として比較的簡便な四分割法が開発されました。

偏心率計算の場合は、偏心チェック・ねじれ割増係数とも耐力壁と準耐力壁等を対象とするため準耐力壁等を用いる場合は耐力壁+準耐力壁等で計算する必要があります。

今回は説明のため、準耐力壁等は無視して説明します。

壁配置バランス計算(偏心率)

偏心率は、各階のX方向とY方向にそれぞれ考え、①重心②剛心③偏心距離④ねじり剛性⑤弾力半径⑥偏心率の順で求めていきます。

順番に計算していけば、決して難しくありません。

それでは、計算していきましょう。

座標はどのようにとってもよいのですが、ここでは平面の左下隅(X0、Y0)から1P離れた点を原点として計算を進めていきます。

①重心

木造軸組工法において各階の重心は、各階共、固定荷重、積載荷重等が平面的に一様に分布していて、偏りがないものとして、平面の図心が重心に一致すると仮定します。

ここで、計算式はGx=Σ(W・X)/ΣWx、Gy=Σ(W・Y)/ΣWy

W:分割された長方形の個々の面積
∑Wx,y:分割された長方形の個々の面積の総計
X:分割された長方形の重心X座標
Y:分割された長方形の重心Y座標


まずは2階の重心を求めます。
下図は長方形に分割した時の中心と原点からの距離(X方向、Y方向)を表しています。

上図から
(1)は、面積(7.28x7.28=52.9984㎡)

番号 床面積 重心(m) 床面積×重心   重心G  
Ai Xi Yi ΣWx=Ai*Xi ΣWy=Ai*Yi Gx=ΣWx/Ai Gy=Σwy/Ai
2 (1) 52.9984 4.55 4.55 241.1427 241.1427    
        241.1427 241.1427 4.5500 4.5500

次に1階の重心を求めます。

上図から
(1)は、面積(7.28x7.28=52.9984㎡)
(2)は、面積(2.185x7.23=5.9651㎡)
(3)は、面積(2.82x3.64=10.2648㎡)

番号 床面積 重心(m) 床面積×重心   重心G  
Ai Xi Yi ΣWx=Ai*Xi Σwy=Ai*Yi Gx=ΣWx/Wi Gy=Σwy/Wi
1 (1) 52.9984 4.55 4.55 241.1427 241.1427    
  (2) 5.9651 4.2775 9.555 25.5152 56.9955    
  (3) 10.2648 6.78 10.01 69.5953 102.7506    
  69.2283     336.2532 400.8888    
  合計
(1階+2階)
122.2274      577.3959 642.0315 4.7240 5.2528

以上、重心が求まりました。

②剛心

耐力壁等の耐震要素の各計算方向(X方向及びY方向)の水平剛性をLx,Ly、その座標をX,Y、剛心の座標をSx,Syとし、各階の剛心を求めます。

ここで、計算式はSx=Σ(Ly・X)/ΣLy、Sy=Σ(Lx・Y)/ΣLx

Lx :X方向の有効耐力壁長さ = 壁倍率×壁実長
Ly :Y方向の有効耐力壁長さ = 壁倍率×壁実長
X:Y方向の耐力壁の中心X座標
Y:X方向の耐力壁の中心Y座標


まずは、2階の剛心を求めます。
下図は2階平面図の耐力壁を配置した図になります。赤枠が壁倍率2,緑枠が壁倍率4の耐力壁が設置されています。

2階X方向

2階Y方向

有効耐力壁長さ(Lxi)と原点から耐力壁の中心までの距離Yiを求めて、2階の剛心Syを計算します。

また、ねじり剛性も合わせて計算します。

方向 存在壁量(m) 距離(m)   剛心 ねじり剛性
壁倍率x 長さx 個数+ 倍率x 長さx 個数+ 倍率x 長さx 個数= 計(Lxi) Yi Lxi*Yi Sy Lxi*(Yi-Sy)^2
X 2 2 0.91 4             7.2800 0.91 6.6248   96.4571
    2 0.91 2             3.6400 4.55 16.5620   0.0000
    2 0.91 2             3.6400 5.46 19.8744   3.0143
    2 1.365 1 2 0.91 2       6.3700 8.19 52.1703   84.4000
                    20.9300   95.2315 4.5500 183.8713
方向 存在壁量(m) 距離(m)   剛心 ねじり剛性
壁倍率x 長さx 個数+ 倍率x 長さx 個数+ 倍率x 長さx 個数= 計(Lyi) Xi Lyi*Xi Sx Lyi*(Xi-Sx)^2
Y 2 2 1.82 1 2 0.91 3       9.1000 0.91 8.2810   102.7354
    4 1.82 1             7.2800 4.55 33.1240   0.5708
    2 0.91 4             7.2800 8.19 59.6232   111.8674
                    23.6600   101.0282 4.2700 215.1735
                            399.0448

次は、1階の剛心を求めます。
下図は1階平面図の耐力壁を配置した図になります。赤枠が壁倍率2,緑枠が壁倍率4の耐力壁が設置されています。

有効耐力壁長さ(Lxi)と原点から耐力壁の中心までの距離Yiを求めて、1階の剛心Syを計算します。

また、ねじり剛性も合わせて計算します。

方向 存在壁量(m) 距離(m)   剛心 ねじり剛性
壁倍率x 長さx 個数+ 倍率x 長さx 個数+ 倍率x 長さx 個数= 計(Lxi) Yi Lxi*Yi Sy Lxi*(Yi-Sy)^2
X 1 4 0.91 2 2 0.91 2       10.9200 0.91 9.9372   244.5187
    2 0.91 2             3.6400 4.55 16.5620   4.3406
    4 0.91 1             3.6400 5.46 19.8744   0.1206
    4 1.365 1 4 0.91 1       9.1000 6.37 57.9670   4.8229
    4 1.365 1 2 0.91 2       9.1000 8.19 74.5290   59.0800
    2 0.91 1             1.8200 10.92 19.8744   50.7003
    2 1.365 1             2.7300 11.83 32.2959   104.5354
                    40.9500   231.0399 5.6420 468.1183
方向 存在壁量(m) 距離(m)   剛心 ねじり剛性
壁倍率x 長さx 個数+ 倍率x 長さx 個数+ 倍率x 長さx

個数=

計(Lyi) Xi Lyi*Xi Sx Lyi*(Xi-Sx)^2
Y 1 4 0.91 1 2 0.91 6       14.5600 0.91 13.2496   229.5838
    4 0.91 1 2 0.91 2       7.2800 4.55 33.1240   0.7972
    4 1.82 1 4 0.91 2 2 0.91 2 18.2000 8.19 149.0580   199.2915
                    40.0400   195.4316 4.8809 429.6725
                            897.7908

③偏心距離

偏心距離は、重心と剛心のズレになります。
計算は、重心と剛心の差の絶対値になります。
上記で求めた重心と剛心を下表にまとめて偏心距離を計算します。

階数 方向 重心G 剛心S 偏心距離e
    |①-②|
2 X 4.5500 4.2700 0.2800
  Y 4.5500 4.5500 0.0000
1 X 4.7240 4.8809 0.1569
  Y 5.2528 5.6420 0.3892

④ねじり剛性

ねじり剛性とは、ねじりに対する固さ表し、各階に剛心(Sx,Sy)周りのねじり剛性が発生します。
これは、各階ごとに1つ求めます。
剛心周りのねじり剛性KRは、下記計算式で求めます。

Lx :X方向の有効耐力壁長さ = 壁倍率×壁実長
Ly :Y方向の有効耐力壁長さ = 壁倍率×壁実長
X:Y方向の耐力壁の中心X座標
Y:X方向の耐力壁の中心Y座標
Sx:Y方向の耐力壁の剛心
Sy:Y方向の耐力壁の剛心

②剛心の計算ですでに計算済みなので、計算は省きます。

⑤弾力半径

弾力半径は、建物のねじりに対する抵抗の度合いを距離で表したものでX方向、Y方向それぞれを求めます。
計算式は re=√(KR/ΣL) となります。

ΣLx :X方向の有効耐力壁長さの合計
ΣLy :Y方向の有効耐力壁長さの合計
R:ねじり剛性

上記で求めた数値と計算式より、下表にまとめて弾力半径を計算します。

階数 方向 有効耐力壁長さ計 ねじり剛性 弾力半径
    ΣL R  re=√(KR/ΣL)
    √①/②
2 X 20.9300 399.0448 4.3664
  Y 23.6600 4.1067
1 X 40.9500 897.7908 4.6823
  Y 40.0400 4.7352

⑥偏心率

最後に偏心率は、偏心距離÷弾力半径で求めます。
計算式は、ey/rex , ex/rey となります。

ex、ey :偏心距離
rex、rey:弾力半径

上記で求めた数値と計算式より、下表にまとめて偏心率を計算します。

階数 方向 偏心距離 弾力半径 計算式 偏心率 判定
e re ①ey/②rex , ①ex/②rey Re <0.3
2 X 0.2800 4.3664 0.0000÷4.3664= 0.000 OK
  Y 0.0000 4.1067 0.2800÷4.1067= 0.069 OK
1 X 0.1569 4.6823 0.3892÷4.6823= 0.084 OK
  Y 0.3892 4.7352 0.1569÷4.7352= 0.034 OK

木造住宅においては『偏心率は0.3以下であること』と規定されていますので、計算結果により偏心率は問題ないことが分かりました。

最後に

今回は偏心率を計算しました。

どうだったでしょうか。少し計算が複雑で難しかったかもしれません。
掛け算や割り算だけでなく、ルートや乗数まで出てきたので何度も見返して学んでいただければと思います。

偏心率は重心と剛心のズレで決まり、ズレが大きいと地震力などの水平力を受けた時に変形が大きくなり、剛心周りを回転するように揺れることになります。

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