はじめに
地震や風などの水平力が作用するとき、筋かい端部や、耐力壁の両端の柱の柱頭・柱脚に大きな引き抜き力が発生します。
そのため、この部分の接合方法は、『計算を用いない方法』と『N値計算』で検討する必要があります。
今回はN値計算について、様々なケースを検討します。
↓この本も参考にしています。
N値計算とは
耐力壁の倍率から簡易的に引張力を算定し、それに適した金物を選ぶ方法をN値計算と言います。
柱に生じる引張力を接合部倍率として表し、引張力を1.96KN/m(壁倍率1)×2.7m(標準壁高さ)=5.3KNで除した数値となります。
この数値に基いて、適合した金物を設置するなど柱頭・柱脚接合部の検討を行っていきます。
計算式は2種類あり、計6パターンのケースが考えられます。
①平屋の柱、2階建ての2階の柱:2パターン
N≧A1×B1-L
N :接合部倍率の数値
A1:当該柱の両側における軸組の壁倍率の差。筋かいの場合は補正値を加える
B1:出隅0.8,その他0.5(梁や桁の曲がらないようにがんばる抵抗力)
L :出隅0.4、その他の場合0.6(床や屋根の重量による押さえ込み効果)
まとめると2パターンになります。
①-1 出 隅:A1×0.8-0.4
①-2 その他:A1×0.5-0.6
②2階建ての1階の柱:4パターン
N≧A1×B1+A2×B2-L
A1、B1は①に同じ。
A2:当該柱の上の2階柱両側における軸組の壁倍率の差。筋かいの場合は補正値を加える
B2:当該柱の上の2階 出隅0.8,その他0.5
L :出隅1.0、その他の場合1.6 ※Lは1階の柱の種類で判断する
まとめると4パターンになります。
②-1 出 隅(1階、2階共):A1×0.8+A2×0.8-1.0
②-2 その他(1階、2階共):A1×0.5+A2×0.5-1.6
②-3 出隅(1階)+その他(2階):A1×0.8+A2×0.5-1.0
②-4 その他(1階)+出隅(2階):A1×0.5+A2×0.8-1.6
求めたN値から下表の継手と仕口を決定します。
記号 | N値 | 必要耐力 (KN) | 継手・仕口の仕様 |
い | 0.00以下 | 0 | 短ほぞ差し 又は かすがい打ち |
ろ | 0.65以下 | 3.4 | 長ほぞ差し込み栓 又は かど金物CP-L |
は | 1.00以下 | 5.1 | かど金物CP-T 又は 山形プレートVP |
に | 1.40以下 | 7.5 | 羽子板ボルト 又は 短ざく金物(スクリュー釘なし) |
ほ | 1.60以下 | 8.5 | 羽子板ボルト 又は 短ざく金物(スクリュー釘あり) |
へ | 1.80以下 | 10 | 10KN引き寄せ金物 |
と | 2.80以下 | 15 | 15KN引き寄せ金物 |
ち | 3.70以下 | 20 | 20KN引き寄せ金物 |
り | 4.70以下 | 25 | 25KN引き寄せ金物 |
ぬ | 5.60以下 | 30 | 15KN引き寄せ金物×2個 |
N値計算(その1)
下図の赤丸の柱について、計算します。
まずはX1・Y5の柱番号31について、計算します。
1.X方向とY方向の軸組を上図のように書き出します。
2.X方向は、1m以内の範囲にある2階の柱30番が一番引抜き力が大きくなります。
②-1 出 隅(1階、2階共):A1×0.8+A2×0.8-1.0 の式に代入し、
N値は『3』となります。
3.Y方向は、2階に耐力壁がないので、引き抜き力は『0』となります。
②-3 出隅(1階)+その他(2階):A1×0.8+A2×0.5-1.0 の式に代入し、
N値は『1』となります。
次はX0・Y3の柱番号21について、計算します。
1.X方向とY方向の軸組を上図のように書き出します。
2.X方向は、2階に耐力壁がないので、引き抜き力は『0』となります。
②-3 出隅(1階)+その他(2階):A1×0.8+A2×0.5-1.0 の式に代入し、
N値は『3』となります。
3.Y方向は、1m以内の範囲にある2階の柱は全て軸組の壁倍率の差が『0』となります。
②-3 出隅(1階)+その他(2階):A1×0.8+A2×0.5-1.0 の式に代入し、
N値は『2.2』となります。
次はX5・Y2の柱番号18について、計算します。
1.X方向とY方向の軸組を上図のように書き出します。
2.X方向は、1m以内の範囲にある2階の柱19番が一番引抜き力が大きくなります。
②-2 その他(1階、2階共):A1×0.5+A2×0.5-1.6 の式に代入し、
N値は『-0.35』となります。
3.Y方向は、2階に柱がないので、引き抜き力は『0』となります。
②-2 その他(1階、2階共):A1×0.5+A2×0.5-1.6 の式に代入し、
N値は『-1.6』となります。
次はX6・Y1の柱番号14について、計算します。
1.X方向とY方向の軸組を上図のように書き出します。
2.X方向は、1m以内の範囲にある2階の柱14番が一番引抜き力が大きくなります。
②-2 その他(1階、2階共):A1×0.5+A2×0.5-1.6 の式に代入し、
N値は『-0.35』となります。
3.Y方向は、1m以内の範囲にある2階の柱7番が一番引抜き力が大きくなります。
②-4 その他(1階)+出隅(2階):A1×0.5+A2×0.8-1.6 の式に代入し、
N値は『0.4』となります。
N値計算(その2)
斜め壁のN値計算で、柱番号6について、計算します。
下図の赤□印の柱番号6については、出隅柱としてx方向とw方向の検討を行い、結果の大きいほうの金物を設置します。
平屋の場合 : N= A1×0.8-0.4 と A2×0.8-0.4 の大きい値となります。
つまり、2×0.8-0.4=1.2と2.5×0.8-0.4=1.6の大きい方のN値となり、
N値は『1.6』となります。
N値計算(その3)
N 値計算において、2階柱の直下に柱が無い場合、「2階耐力壁の作用による引抜力を どのように1階柱に伝達するか」については、2種類紹介されています。
①2階の柱が1m以内のずれの場合、最寄りの1 階の柱の上にあると仮定して、1 階の柱のN 値計算を行う
②2階の柱のN 値を梁の掛かり方を考慮して1階の柱のN 値に按分して加算する。
【柱⑥について】
柱②の引抜力は、柱⑥と柱⑦に3:1の比で流れる(3/4 が伝わる)と考えると、
N=2.5×0.5×(3/4) + 2.5×0.5-1.6≒0.59
N値は『0.59』となります。
【柱⑧について】※床や屋根の重量による押さえ込み効果がない
柱④の引抜力は、柱⑦と柱⑧に1:1の比で流れる(1/2 が伝わる)と考えると、
N=2.5×0.5×(1/2)+2.5×0.5-0.6=1.28
N値は『1.28』となります。
最後に
今回は、N値計算について、様々なケースを計算しました。
どうだったでしょうか。掛け算や足し算、引き算で計算できますが、上下階や柱の位置によって計算が異なるので少し複雑だったのではないでしょうか。
引抜きをイメージして、安全な金物を選定しましょう。